「時は満ちたぞ、ダンテス・・・」
「唯一偉大な指導者のみが、強大な力を手に入れることができるのだ」

ラスタバドの指導者「真冥王」ダンテスが同胞の命を用いてまで召喚しようとした異界の神、ギルタス。
ダンテス自らの命さえも使い尽くした召喚の儀式だったがそれは失敗に終わり、ギルタスは不完全な状態でアデン世界に出現した。
時空を隔てた存在の出現はアデン世界を大きく動揺させ、様々な異変を呼び起こす。
目覚める「暗黒竜」ハルパス。ハルパスの陰謀の要たる「生命の木」をめぐってのドラゴンナイトとイリュージョニストの来訪。
そしてアデン各地に出現した「時の歪み」は、ギルタスが創造した別世界へと繋がる通路だった。
破壊を望むギルタスは自らが創造した世界「テーベラス」、後に「ティカル」の住人をも操り、時の歪みからアデンへ侵攻させる。

ギルタスが創造した世界はテーベラスとティカルだけではない。
また破壊の衝動にあふれた神でありながら、その作る世界には風光が明媚なものもある。
以前にほんのわずかな間、アデンと時の歪みを通じて繋がった世界がそうであった。
その地の名は「日ノ本」という。
春に花咲き、夏には緑が映える。秋になれば山も里も紅葉に染まり、冬は一面の銀世界が広がる。
「日が昇り出づる処」という意味の名を持つ、「もののあはれ」に満ちた地だ。
その地を治める者は「大名」日吉丸。
才気にあふれ、情に満ち、戦に強く、明るい人柄で臣下にも民にも慕われている。

ギルタスはすでに一度アデンと繋がり、世界と世界が繋がりやすくなっている日ノ本を、
テーベラスとティカルに続く侵攻者として目を付けた。
「彼の地に滅びを。我を解き放て。」
テーベラスとティカルの住人は創造主であるギルタスの思念に抗い得ず、アデンへの攻撃を行ったが、日吉丸は違った。
「断る。儂の戦は儂のものだ。誰と戦うか、いつ戦うか、いかに戦うか。儂が全て決める。日ノ本の主として、これは断じて譲れぬ。
そして今、儂には彼の地の者と戦う理由はない。」
「・・・佐ノ吉が世話になったようでもあるしな。」
自らの命に従わない日吉丸にギルタスは怒り、猛った。
「ならば、まず汝らが滅びよ。」
ギルタスは日ノ本に住まう妖かしの存在「妖怪」に力を与え、日吉丸とその軍勢に攻撃を仕掛けた。
日吉丸は武力に優れる「侍」を中心とした精鋭の軍勢を率いていたが、妖怪との戦いには慣れてはおらず、敗れてしまう。
彼は軍勢の多くを失い、居城をも奪われてしまうのだった。

「やれやれ、参った!」
わずかな側近に守られながら、日吉丸はあぐらをかいて頬杖をつき、膝を叩いてかつての居城を見やった。
そこはすでに妖怪の跋扈する場所となり、戦の傷跡に加え、ギルタスの影響か妖怪の力か、奇怪な変貌を遂げている。
「まあ、裸一貫なぞ久々だ。存外に楽しいものよの、佐ノ吉よ。」
全てを失ってなお明るさを失わず、むしろ活力にあふれた様子を見せる日吉丸。
「殿、それは・・・。」
あまりにも気楽すぎませぬか、と、側近である佐ノ吉は困ったような、だが少しだけ嬉しそうな表情を浮かべた。
「さて。腹が減っては戦もできぬ。飯でも食って、これからどうするか考えるとしようか。」
日吉丸はそう言って立ち上がり、一行がその元・居城に背を向けようとしたその時、佐ノ吉が叫び声をあげ、何かを指差した。
「殿、あれを!」
彼が指差した方向には城が見える。
いや、彼らと城の間にある空間が歪み、いびつな姿となった城が見えた。
たちまち、歪んだ空間に裂け目が生じ、まばゆい光が裂け目からこぼれはじめる。
「殿、あれは・・・」
「うむ。『時の歪み』であるな。」
以前にアデンと日ノ本が繋がった際に、時の歪みに巻き込まれた佐ノ吉から報告を受け、日吉丸はその存在を知っていた。
突如として出現した時の歪みを見つめる彼の眼光は鋭かったが、その口元がにやり、と歪む。
「さては『ぎるたす』め、功を焦りおったな。妖怪どもに戦をさせる気なのだろうが。」
「儂は知っているぞ。あの向こうにいる者達は我が配下に勝るとも劣らぬ。そして人ならざる者共との戦いにも長けていると。」
彼は呵呵、と大きな笑い声をあげた。

「佐ノ吉よ、これは好機ぞ!異界の者を迎える支度をせい!」